2017年1月20日金曜日

狩人的小話⑤「襟巻雷鳥」と「鶉」

 七面鳥(ターキー)に触れたついでにもう一つのゲームバード(狩猟鳥)についても紹介したいと思います。
 アメリカのフライタイイング教本やパターンブックなどを見ていると、よく名前が出てくる割に実態が分からない鳥が幾つかあります。ターキーなども我々日本人には決して馴染みのある鳥とは言えないと思いますが、それでもその存在については漠然としていながらも相応の知識は持っているし、他の鳥と間違えることはないですね。
 ところが「グラウス Grouse」と聞いたらどうでしょうか。試しに辞書を引くと「ライチョウ」と書いてあります。日本の雷鳥は天然記念物だからハンティングなんてもってのほかで、養殖されているという話も聞かないからフライマテリアルとして流通することはないと思うのですが、そうすると北米のライチョウはずいぶん数が多いのだな、などと想像をめぐらしていました。ところがよくよく調べてみると数が多いということを別にすれば日本の雷鳥と北米のライチョウとの間には若干異なる事情があるようです。

襟巻雷鳥(ラフドグラウス)の羽根

 日本で雷鳥と言うと漠然としたイメージでは高山に住み、夏は灰色斑、冬は白い羽根に生え変わる例の一種類しか思い浮かばないのですが、英語圏でグラウスと呼ぶライチョウは羽根の色が季節によって変わったりはしないようです。その一方、日本の雷鳥と同様に羽根の色が変わる種類もいて、それはグラウスでなく「ターミガン Ptarmigan」と呼ばれているとのことです。いずれも「ライチョウ」の訳がついているようですが、日本の雷鳥はグラウスでなく、どうやらターミガンと言うことになりそうです。

 さて、それでは北米でグラウスと呼ばれる鳥は一体どんなライチョウなのでしょうか。どうやらターミガンと比べると大きさは一回り程小さいらしく、日本の鳥との比較ではむしろ鶉(ウズラ)に近いと思われます。
 そして鶉と言う存在に注目してから改めてフライのパターンブックを見直すと、アメリカの本に多用されるグラウスと言う名前は、実はヨーロッパではほとんど目につかないことにも気付きます。その代わりに記載される数が多いのは「パートリッジ Partridge」です。パートリッジはヤマウズラなので正に北米のグラウスと同じ扱いと見做せるでしょう。
 そう言えば「狩人的小話①川」で紹介したように、スペインでは最もポピュラーなハンティングの獲物はウズラもした。とするならば、ヨーロッパでのウズラ(パートリッジ)と同様、北米ではグラウスがハンティングの対象としてポピュラーであり、その結果としてフライマテリアルとしても多用されるようになったと考えても的外れではないのではないでしょうか。

 「グラウスは朝の早い時間帯に砂利道に良く出てきて小石を啄むんだ。」そう教えてくれたのは親友の釣師にしてハンターでもあるカナダのなべちゃんでした。彼に聞くと、やはりグラウスはターキーよりもポピュラーなゲームバードで、実際ターキーに比べればより簡単に獲れるらしいです。
 正確に言うと、そのグラウスは「ラフドグラウス Ruffed Grouse」という名で、日本名はエリマキライチョウと言うそうです。襟巻雷鳥の名前の通り、恐らく求愛行動と関係があるのだろうと想像するのだけれど首周りの羽根を逆立てることがあると言います。またなべちゃんの言うところによると、現地では確かにライチョウというよりウズラに近い存在と認識されていて、実際パートリッジと呼んでいる人も少なくないのだとか。


 ターキー同様、彼は定期的にハンティングで仕留めたグラウスの羽根も送ってくれます。テイル(尾羽)も翼の羽根(クイルウィング)も柔らかくしなやかで、艶やかで、何より独特の斑紋模様が美しい。グレー系の羽根と茶系の羽根があるのは雌雄の別か、あるいは生息域の違いによる差でしょうか。全長が小さい分それぞれの羽根も小振りだから鱒釣り用のウェットフライを巻くにはちょうど良いサイズです。実のところ、このグラウスを用いたウェットフライで僕はすでに多くの鱒を釣っていて、僕の釣りには欠かせないフライマテリアルとなっています。

 例えばテイルとウィングに尾羽を使い、スロートにソフトハックルを用いたメイフライ・ウェットは繊細な動きで鱒を誘うのは言うに及ばず、何よりも僕自身が強く魅了されています。


 もう一つは、羽根の束の中からあえて黒い部分を選んでウィングに使ったウェットフライです。ウィング前にパラりと一周させたハックルも同じグラウスのもので、ホワイトティップのブラックを使いました。ボディにはピーコックハールを用いて、僕は水に溺れた小型のビートルを意図して巻いたのだけれど、別に夏でなくても良く釣れるから、羽化する直前に水面を目指すトビケラに見えるのかもしれないし、或いは何にも似ていないけれど鱒にとって美味しそうに見える生命感が宿っているのかもしれません。


 鶉(ウズラ)や雉(キジ)は僕にとって子供の頃から非常に身近な野鳥でした。いずれも生息域が近く、低木の多い明るい森や田畑など、つまり里山を棲み処とする代表的な平野部の野鳥と言えます。魚釣りに出掛けても山岳渓流は別として里川のヤマメ釣りや平地の清流でオイカワ釣りをしているときなど、今も雉を見掛けることが多くあります。
 ところが子供の頃に良く見た鶉をなかなか見かけなくなりました。雉と異なり小さいから気付かないだけでしょうか。よちよちと不安げに、でも素早く小さな群れで足元を駆け抜け、藪から顔を出す彼らの姿が無性に懐かしく思い出されます。


 ここ数年、僕は毎年北陸の渓流へイワナ釣りに出掛けるのが夏の愉しみとなっています。僕のホームリバーは標高も低い東京近郊の里川だから、イワナの生息域から外れていて・・・、だから年に何度か北陸の友人を頼って彼のイワナが棲む渓へお邪魔するようになりました。
 その、イワナの溪へ通い始めた最初の年に、全くの偶然から久しぶりに鶉の姿を望むことができました。有名な寺院への観光の道すがら、駅からの散歩を楽しんでいた田んぼ脇のあぜ道で、彼は自分の丸い体を震わせるようにして愛らしい自分の姿を見せてくれました。

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