2017年1月19日木曜日

狩人的小話④「七面鳥」

 実はモグリ(「狩人的小話③鴨」参照)の鉄砲撃ちとは別に本物のハンターも近所にいました。
 タカノブは僕と同じ町内に住み、小学校から高校まで同じ学校に通った友達で、小・中学校時は同じ野球チームのメンバーだったし、色白でひょろひょろしているところは僕とよく似ていました。高校生になると同じ学校へ通ってはいても、お互いに野球を離れ一緒に遊ぶことはなくなりましたが、それぞれスケボー片手に自転車で走る姿を街角で目の端に捉えてはいました。高校を卒業してからは会っていないけれど、そのタカノブの父親は会社勤めながら狩猟を楽しむ趣味人でした。

野生のターキー(七面鳥)の群れ@カナダ

 タカノブの家は田んぼが広がる地域の一角に固まって建つ数軒の住宅の一つでした。数軒が固まっているとは言っても、それぞれの敷地はかなり広くて母屋と離れがある農家の作りでしたから、都会のちまちましたイメージはありません。家は田んぼ脇の私道を入ると広い庭の西側にあって、北に母屋、南に離れ(納屋だったと思う)があり、そのわきに動物園の檻にも似た大きなゲージが二つ並んでいました。体のラインがシャープな黒い大きな犬と、それよりはやや毛足の長い白と茶の混じった犬が一頭ずつゲージの中でウロウロしていて、遊びに行くと決まって最初は吠えたてられました。彼らは僕が初めて見た猟犬で、タカノブの父親はその二頭を連れて狩猟に出掛けるのだと、何度目かに遊びに行ったときに聞かされました。猟犬を見たのも初めてなら、趣味で狩猟を嗜む人と出会ったのも初めてでした。もちろんモグリを除いて、ではありますが。

 ある日、野球チームのメンバーでバーベキューをすることになり、僕らは親たちが用意した安い肉を文字通り餓鬼のように食いまくっていました。野菜を食えと言う怒鳴り声が飛び交うたびに金網の上の肉だけが減っていくのはお約束だったでしょう。
 皆のお腹が半ば膨れた頃にタカノブの父親が追加の肉を持ってきたのですが、家で飼っていた七面鳥を潰してきたのだと言います。周りの大人の「おぉ」と言う驚きなのか感激なのか嫌悪なのかよくわからない唸り声に釣られて子供たちはただはしゃいでいました。肉片とは言え七面鳥と出会ったのもこの時が初めてだったと思います。ただしタカノブの家で七面鳥を見た記憶はなく、その肉の味も定かではありません。ただ少々油っぽかった記憶だけが残っているのだけれど、後年教えられたところによると、七面鳥の肉はむしろぱさぱさしているとのことなので、食べ方が悪かったのか、或いは単に僕の記憶違いなのかもしれません。
 誰かがアメリカではクリスマスに七面鳥を食べるのだと言っていたようです。

カナダ在の親友なべちゃんが撃ったワイルドターキー!

 僕の親友にして釣り仲間であるカナダ在のなべちゃんは、そろそろあちらの生活も20年近いのではないだろうか。もともとバスフィッシング狂だった彼がアウトドア天国へ移住したのだから当然釣りを愉しみ、キャンプに出掛け、そしてハンティングも覚えたそうです。
 「ほら、あそこにターキーの群れがいる」。
 何度目かのカナダ旅行で、なべちゃんに連れられて釣りに行く途中のことでした。車の中で彼の指さした方を見ると、開けた森の中に点々と大型の鳥が歩いている姿を確認できました。初めて野生の七面鳥と出会い僕は少々興奮したのですが、なべちゃんはその時に笑いながらターキーハンティングの愉しみを教えてくれました。
 ターキー(七面鳥)の猟期は春と秋の二度であること。
 他のハンティングやまたはフィッシングと同様、レギュレーションも厳しく獲って良い数も決まっていること。
 秋の感謝祭やクリスマスにターキーは付き物だけれど、その肉はややパサついていて特に美味しいわけではないこと。
 それでもハンティングの獲物として人気なのは比較的身近で獲れる大型鳥類であり、またその羽根が美しいことも理由であること、等々。


 七面鳥と言うと、我々日本人には余り馴染みがなく少々エキセントリックな存在ではあるのですが、なべちゃんからの話でも分かるように北米では非常に馴染みの深い鳥らしいです。
 もちろんフライフィッシングの世界でも重要な羽根の一つと言って良く、特に比較的大型のウェットフライを巻く際にはなくてはならないマテリアルの一つです。
 僕の魚釣りは大物とは縁がないのですが、定期的になべちゃんからカナダ産ワイルドターキーの羽根が届くので、フライタイイングを大いに楽しむことができます。


 左のフライはテイル(尾羽)の先端が白い部分を生かして何となく雰囲気でアレンジしたフライです。
 右上段はターキーの翼の羽根(クイルウィング)を用いたフライでその名も「カナダ Canada」。下段はテイルの斑紋を生かした「アイリッシュターキー Irish Turkey」。この二つのパターンはレイ・バーグマン Rey Bergman (1891-1966)の『トラウト Trout』というパターンブックに紹介されているものを僕が巻きました。

 次にこのターキーの羽根をドライフライに用いた例を幾つか。
 まずはセンターテイルをフライのボディとテイルに、またクイルウィングの白っぽい部分をウィングに用いたメイフライ(カゲロウ)の例。これはターキーの特徴を生かしてマラード(鴨)のウィングを用いたフライよりも大型のフライを巻くことができます。


 次はセンターテイルのファイバーを数本適当にまとめて結びこぶをつくり、エヴァンゲリヲン風(?)のレッグ(脚)として用いた例。一応、脚がついているのでホッパー(バッタ)のイミテーションとして考えてはいるけれど、トビケラや他の陸生昆虫としても使えるでしょう。


 昨秋、なべちゃんと久しぶりに連絡を取った際、感謝祭にターキーを食べたか尋ねると、ターキーよりももっと美味しいグラウス(蝦夷雷鳥の仲間)の方が好みだ、とのこと。また感謝祭の連休にはムース(ヘラジカ)ハンティングに出掛けると言っていたけれど、その後の話を聞いていないなぁ。
 今はもうカナダの暗くて長い冬の真っただ中。なべちゃんは今頃きっと、もうすぐ始まるアイスフィッシングの準備に忙しい頃だろう。今年の冬も氷の上でレイクトラウトやホワイトフィッシュを抱えている写真が送られてくるに違いない。

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